INTERVIEW
「住む方の情緒を育めるような、人間の感性に訴えかけられる場所になったら嬉しい」一級建築士 川道浩 / 株式会社リンクアップ代表 髙橋康介
『住む方の情緒を育めるような、人間の感性に訴えかけられる場所になったら嬉しい』
一級建築士 川道浩氏
株式会社リンクアップ代表 髙橋康介氏
―関西を中心に活動されていると伺っています。最初に川道さんの建築家としてのキャリアについて教えてください。
川道:大学卒業後、2002年に大手ハウスメーカーに勤務し、15年からは前職で一緒だった髙橋康介が立ち上げた株式会社リンクアップにジョインしました。せっかくの機会なので今日は弊社の代表を務める髙橋も同席させていただいております。
髙橋:僕は横から少し補足をさせていただければと思っています。よろしくお願いします。
―ハウスメーカーではどんな物件を担当されていたのでしょうか。また独立のきっかけも教えてください。
…と、簡単にいいましたけど、独立まではなかなか踏ん切りがつかなかったというのも正直なところです。でも、あるとき、入社年次に応じて受ける社内研修に参加したことをきっかけに腹が決まりました。
研修で偶然、髙橋に会って声をかけてもらったことも大きかったです。
本来、僕の入社年次的には翌年か、翌々年にしか受けられなかったんですけど「退社が決まっているので、そこをなんとか!」と(笑)。そしたら「何も発言しないなら参加してもいいですよ」と言っていただいて出席させてもらったんです。そこで、川道に再会し「リンクアップの仕事を手伝っていただけませんか?」と声を掛けさせていただきました。
と言っても、結果的にジョインしてもらったのはそこから2〜3年後だったと記憶しています。
―その研修の中身が気になります。
髙橋:MBTI(16 Personalities)の先駆けのような研修で、建築の話というより、マインドに訴えかけるような内容でした。
慶應義塾大学理工学研究所の特任教授をされていた小杉俊哉先生が話をしてくださって、端的に言うと「そろそろ勤務10年が経つけど、この先もこの会社に骨を埋める気はあるのか」的な覚悟を問うような研修だったと記憶しています。
川道:要するに自分のキャリアをこの先、どうしていくんだ、と。僕としてはちょうど『やり切った感』を覚えていた時期だったことで響いたところもあったと思います。と言っても、髙橋が言うように、本当に独立してやっていけるのか、食べていけるのか、を含めてすぐには踏ん切りがつかなかったんです。
でも、2015年3月に退社を決め、同4月からリンクアップでの仕事を始めました。
ハウスメーカーという枠組みから外れた中で、漠然とながら、インテリア雑誌『I’m home.』に掲載されるような仕事をしたいというのが当初の目標でした。
―数多のインテリア雑誌の中で『Casa BRUTUS』でも『モダンリビング』でもなく、『I’m home.』だ、と。
川道:そうなんです。インテリア雑誌毎に特色がある中で、僕の勝手なイメージですが『I’m home.』はしっとり、ハイセンスで、あまり商売っ気がないというか。ああいう温度感が自分の『家』に対する思いとマッチするなと感じていたので、『I’m home.』に載せてもらえるような家を建てることを自分の中ではコンセプトにしていました。
そしたら数年後、割と早い段階で西宮市に建てた『F Residence』を、そこから数年経って『Riverside Retreat House』を掲載していただいたんです。
それをきっかけにさらに仕事の広がりが生まれて、今に至ります。いずれも新築物件でしたが、昨今は医院併用の住居や店舗をはじめ、リノベーションに携わることも多いです。
―今回撮影もかねてお邪魔した『苦楽園の家』もリノベーション物件だと伺っています。

髙橋:少し説明を加えさせていただくと、僕は前職で営業をしていた流れから、不動産の売買、仲介、賃貸・管理をはじめ、住宅取得に関するコンサルティング業務を得意にしているため、クライアント様のご要望を伺ったり、資金にまつわるご相談などは私が担当させていただき、アーティスティックな部分は川道に任せるというように役割分担をしているんです。
その中では、建設業の免許等も取得しているので、建設業者としてリフォームに入らせていただくこともあれば、新築に携わることもある、と。
弊社のコンセプトに『0 to 10.』を掲げているのも、1から10までではなく、できるだけ深いところから関わらせていただくという意味での0から10の後のピリオドまで一緒に、という思いからです。
僕たちはクライアント様の想いにできる限り寄り添ったライフスタイルをデザインし、カタチにすることを心掛けています。今回の『苦楽園の家』もその1つで、物件探しからご一緒させていただきました。
と言っても、なぜかうちにお問い合わせいただくクライアントさんは、総じてセンスのいい方ばかりで、弊社から『これはどうですか?』みたいな提案をせずとも、あらかじめ「こういう物件があるんですけど…」と、ご自身でいくつか候補物件を持って来られる方も多いんです。
『苦楽園の家』もクライアント様が見つけてこられた物件で、弊社といたしましては空きがあるのか、どういう販売経路なのか、といったところから関わらせていただきました。
―その上で川道さんが内覧されて、クライアントのご意向のもとで図面を引かれた、と。

川道:そうですね。大枠のご希望や生活の中で大事にされていることなどをお伺いし、場合によっては、打ち合わせを兼ねて以前に住まれていたご自宅に伺って、その雰囲気や好まれるテイストみたいなものなどを知るところから始めることもあります。『苦楽園の家』も、あらかじめクライアント様から「リビングを広く取りたい」とか「友人を呼んでみんなで楽しくお酒を呑むのが好き」といった話を伺っていましたし、ご自宅を拝見して僕なりに「あまり生活感は表に出したくないんだな」「キャンプ用品がたくさんあるな」といった情報を収集した上で、設計を始めました。
『苦楽園の家』はマンションの中でも特別な間取りというか。2世帯分を1世帯として使用していて92平米もあったため、4LDKと部屋数も多かったんです。
それをリノベーションによって、2LDKにしました。鉄骨ブレスの入った壁は取り壊せないということを前提にリビングの入り口や玄関の取り方を決め、回遊動線を取り入れることで各部屋への行き来をスムーズにしつつ、冷蔵庫や洗濯機といった白物家電をできるだけ表に出さないように、といった工夫を行いました。
もちろん、クライアントさんのご予算もあるので、パースなどを作った段階で予算オーバーだったら「この部分は削りましょう」「パネルの素材を変更しましょう」みたいな話し合いも事前に行なって進めていきました。
―近年は新築よりリノベーションを好まれる方も増えているそうですね。
川道:確かに資材の高騰なども影響して、新築には手が出ないという方も増えている気がしますし、中古マンションを購入して、リノベーションに予算を割かれる方も断然、増えています。もちろん、リノベーションと一口に言っても、単に建物の中身を新しくすればいい、ということではなく、場合によっては耐震補強が必要な物件もあるので、そこの見極めはしっかりとした上で、ご提案をしています。
髙橋:ただ、古い物件の場合、銀行さんがその物件への価値を見出しにくいという観点から、銀行の融資を受けづらい状況にあるのも正直なところです。
もちろん、全部が全部ダメですということではなく、築年数は多少経っていてもマンションの大きさや、お客様の属性によって融資がつくこともありますが、金融機関なり、国の施策によってもう少しリノベーションに対する理解が深まれば、古いものを壊さずに受け継ぎながら、新たな使い道を探るということももっと闊達にできるようになっていくのではないかと思っています。
ただ、今はまだそこがブレーキになっていることも多いので、たとえば、銀行融資のつかないような築50〜60年の戸建て物件を弊社で買い取って、自社で設計し、リノベーションして賃貸に出すこともあります。



―建築家として、新築とリノベーションそれぞれに感じている面白さを教えてください。
川道:大きなところでいうと、リノベーションはある程度、限られた条件の中でやれることの最大値を探す面白さがあります。
一方、新築もやれることのリミットがないわけではないですが、天井高や内部構造といった断面設計は一から考えられるので、そこは新築ならではの面白さだと思っています。
―リノベーションの際に留意されていることはありますか?
川道:リノベーションの場合、『箱』が決まっていて、必然的に制限がかかるところも多いですから。たとえば『苦楽園の家』もそうでしたが、天井高があまり高くはないのにボコボコと穴を開けてしまうとノイズになるというか、ごちゃっとした印象になりがちなんです。なので、天井は、極力ノイズがないように、視線がサーっと流れるような間取りや照明の取り方は工夫しました。
また、壁も床との間にほんの少し隙間をあけて、アルミのLアングルの上に壁を載せてから塗装しています。本来は、床まで壁がくっついていて、壁の下部5センチくらいが幅木になっている家が多いんですが、床との間にわずかな隙間を作ることで全体がキリッとした印象を生み出せるからです。リノベーションの場合は特に、そうしたちょっとした工夫で家の表情をガラリと変えられることも多々あります。
さらに、戸建てやビルのリノベーションを行う際には、その街に建物がどういう表情を見せているか、というように外観と街との調和性もすごく考慮します。たとえば、街の雰囲気に対してすごく攻撃的なファサードにしてしまうと、どうしても街の中で『違和感』に捉えられてしまいがちなんです。それもあって、街に応じて使う素材を変えるとか観葉植物を効果的に使うといった工夫をし、より風景に溶け込ませることを考えたりもします。

―建築家としてのデザインへのこだわりはありながらもあくまでその家のある場所や住まわれる方に寄り添った家づくりを心がけていらっしゃるということですね。
川道:そうですね。もともと僕はハウスメーカー出身のため、正直、自分の名前を目掛けて依頼をしていただくクライアントさんはほぼいなくて。先ほど髙橋からご説明させていただいたような、不動産探しのところを含めてリンクアップとしてトータルプロデュースをお願いされることが多い。であればこそ、クライアントさんのご要望に自分が合わせていくことはいつも心掛けていますし、それが僕の作品成果だとも思っています。
もちろん、建築家の方の中には「僕の建築はこうです」「この作品に共感してくれるクライアントさんの仕事しか受けません」っていう方もいらっしゃいますし、実際、クライアントさんも「この建築家さんに建ててもらいたい!」という方もいらっしゃいます。
ですが僕は自分の好きなテイストを押し付けるというよりは、クライアント様のやりたいことを最大限に取り込んで、形にしていくことを理想にしています。
外観を含めてリノベーションをする際も同じで、自分がこうしたい、というよりは、街に対してそのビルがどうあるべきかを考え、クライアントさんのご要望を聞いて、調整しながら建築を形にしていきます。つまり、自分の理想をシフトチェンジすることを厭わないため、自分によほど近しい人にしか「これは川道が作った物件だな」とわからないはずです(笑)。
―川道さんにとって『家』というのが住む方たちにとってどういうものであって欲しいですか。
川道:まずは、心安らぐ場所であるのが第一ですし、お子様を含め四季の移ろいや自然の変化を感じられる家というのが理想です。家に居ながらにして、「今日は月が綺麗だね」とか「葉っぱって季節ごとに色が変わるんだね」みたいなことに気づいてもらえたら嬉しいというか。住む方の情緒を育めるような、人間の感性に訴えかけられる場所になったらいいなと思っています。

―今後、こういう仕事をしたいというような野望はありますか?
川道:僕は神戸で育ってきた人間なのですが、神戸は土地柄的に斜面地、傾斜地、坂道がすごく多いんです。なので、そういう特性を活かした建築には、今後もどんどん挑戦していきたいと思っています。
髙橋:弊社といたしましても、先ほど川道がお話しした家や建物にまつわる人の想いに寄り添った仕事をしていきたいというのは不変的なテーマです。実際、クライアントさんと弊社の思いが合致する中で完成した家、建物はやっぱり特別だなということは毎回、感じさせてもらっていますし、僕自身もそういう仕事ができた時に一番のやりがいを覚えます。
また、人と家、人と人、というように何かと何かを繋げる、リンクアップさせることで、単体の人、家がより高まればいいなということは創業以来、持ち続けてきた想いなので、それは今後も継続していきたいです。
インタビュー・文/高村美砂(フリーランスライター)